はじめに
間も無く、NHK朝の連続ドラマ小説「ちむどんどん」が最終回を迎えます。視聴率は前作「カムカムエブリバディ」とほとんど変わらないものの、『ちむどんどん反省会』と言うワードが出来るほど、残念ながら「ちむどんどん」はネガティブな話題が大変多くなってしまったドラマでした。
特に主人公「比嘉暢子」のキャラクターへの不評が多く、不快を感じる視聴者も少なくありませんでした。また、「暢子」を演じる黒島結菜さんにまで影響が出始め、黒島さんの演技等にまで意見が言われるようになってしまいました。
個人的には黒島結菜さんは好きな女優さんで島本和彦先生の「アオイホノオ」に出演していた頃から天真爛漫なキャラクターが似合う女優さんだと思っていました。また、今回の「ちむどんどん」を見ていると、2020年テレビ東京系列で放送された「行列の女神 らーめん才遊記」に出演していた黒島結菜さんを思い出していました。
「らーめん才遊記」は
「らーめん才遊記」は2009年から2014年まで「ビッグコミックスペリオール」(小学館)で連載されました。原作:久部緑郎さん、作画:河合単さんよるラーメンを題材にしたグルメ漫画で、ラーメン評論家の石神秀幸さんも原作協力をしています。
「らーめん才遊記」の前作で、同じ時系列が書かれている「ラーメン発見伝」も同コンビ、石神秀幸さん原作協力で描かれ1999年から2009年まで同じく「ビッグコミックスペリオール」で連載されていました。
また、「らーめん才遊記」のテレビドラマ化に伴い、同じ時系列の続編を描いた「らーめん再遊記」が2020年から同じく「ビッグコミックスペリオール」で現在、連載されています。
「らーめん才遊記」のあらすじ
以下ネタバレがあるのでご注意下さい
「らあめん清流房」のオーナーでラーメン界のカリスマである芹沢達也は、ラーメン向けフード・コンサルティング会社「清流企画」、そして実験的ラーメン発表の場としてセカンドブランド「麺屋せりざわ」を運営していました。「麺屋せりざわ」では毎月、月替わりラーメンを提供し多くのお客さんから絶賛されていました。そんなある日、絶賛される芹沢の月替わりラーメンを「今イチ」だと述べる若い女性客、汐見ゆとりが現れ、ゆとりはタマネギのみじん切り炒めを乗せるという手法でその月替わりラーメンの味を向上させたのでした。
ゆとりは有名料理研究家、汐見ようこの娘で母親による食育により料理への知識、非凡な感性、鋭い味覚を身につけていましたが、母の敷いたレールのままフランスの料理学校へ留学することに疑問を持ち、母と数年前に離婚していた実父の所へ家出してしまいました。
母親からはジャンクフードと言われ今まで食べたことの無かったラーメンを父親に連れて行かれたラーメン店で初めて食べて感動したゆとりはラーメン店のフードコンサルティング会社の「清流企画」の入社試験のために面接に来たところ「麺屋せりざわ」の月替わりラーメンを食べたのでした。
ゆとりは類稀な食に関する才能があるものの、社会常識や人間関係の機微を読むという能力に欠けており、本人に悪気が無くとも率直すぎる発言をしてしまう性格なのでした。
無事に清流企画に入社し、清流企画の同僚と共にいくつかのラーメン店のコンサルティング案件を解決したゆとりは「ラーメンなでしこ選手権」という女性ラーメン職人の選手権に出場することになります。有名料理研究家である母・汐見ようことの確執から、ゆとりは選手権で優勝できなければ清流企画を辞め、ようこの後継となるべく戻る約束をしてしまいます。選手権決勝では1票差で敗れるものの、ゆとりは「無効票の2票があれば自分の勝ち」と主張し、ついには母と娘の「ワクワク・ラーメン対決」が開催されることとなり、ゆとりは「ワクワク」を見事に体現したラーメンで母親の汐見ようこに勝利するのでした。
そして、ゆとりは芹沢に優勝したときのお願いとして、女性スタッフのみによる創作ラーメン屋「麺屋なでしこ」を開業し、ゆとりが店長、清流企画の同僚である夏川が副店長、「ラーメンなでしこ選手権」で競ったライバル達の石原麻琴や西園寺由真も共に働くことになり、芹沢や石原麻琴の父が苦心していた「ラーメン、1000円の壁」も乗り越えた人気ラーメン店となるのでした。
最終話、ゆとりと芹沢はゆとりが初めてラーメンを食べて感動したラーメン店を訪れます。そのラーメン屋は「らーめん才遊記」の前作「ラーメン発見伝」の主人公である藤本浩平がライバル芹沢を破りオープンした「ラーメンふじもと」だったのでした。
テレビドラマ「行列の女神 らーめん才遊記」は
「行列の女神 らーめん才遊記」はこの漫画「らーめん才遊記」を原作としたドラマで、鈴木京香さんが主演で2020年4月20日から6月8日までテレビ東京系列で全8話で放送されました。
原作では男性であった「芹沢達也」がラーメン界の女性カリスマ「芹沢達美」となり、鈴木京香さんが演じました。そして、汐見ゆとりを演じたのが黒島さんでした。
芹沢が女性化するというビッグチェンジはありましたが、それぞれのキャラクターの基本設定は原作のままで汐見ゆとりは類稀な食に関する才能があるものの、社会常識や人間関係の機微を読むという能力に欠けており、本人に悪気が無くとも率直すぎる発言をしてしまう性格のままでした。
ドラマ版「らーめん才遊記」は鈴木京香さん演じる主人公の芹沢達美・清流企画を中心としてストーリーは展開されますが、黒島結菜さん演じる汐見ゆとりが全てのエピソードのキーマンとなりストーリーが決着します。
「ちむどんどん」の暢子と「行列の女神」のゆとり
「ちむどんどん」の多くの視聴者が、この「行列の女神」をもし見ていたら、黒島結菜さん演じるキャラクター「暢子」や「暢子」のシェフ姿、そして原田美枝子さん演じる「大城房子」にきっと何処かで見たような既視感を覚えているのではないでしょうか?
大変面白いのは「暢子」と「ゆとり」のキャラクター設定が大変似ているにもか関わらず、何故か「ちむどんどん」で非難される程「行列の女神」の「ゆとり」には視聴者はイライラしなかったのです。
「行列の女神」が放送された2年前と社会状況が変わり、視聴者の感情に大きな変化があったのかもしれませんが、朝の連続テレビ小説の視聴者層や時間帯が大きな原因なのでしょうか?それとも、やはり原作・脚本に問題があるのでしょうか?
「ちむどんどん」の原作は
『ちむどんどん反省会』でたびたび言われているのが、「ちむどんどん」の原作・脚本についてです。「ちむどんどん」の原作は羽原大介さん。ちむどんどん反省会の矢面に一番立っている人物のひとりと言えるでしょう。
羽原さんは現在57歳、日大芸術学部を卒業し、つかこうへい事務所、映像制作会社に勤務後、1992年、29歳で脚本家デビューをしました。デビュー後、数々の作品を担当し、2006年には映画「パッチギ」で日本アカデミー賞優秀脚本賞(共同脚本)、2007年には映画「フラガール」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞(共同脚本)を受賞し、テレビドラマでは2014年にNHK連続テレビ小説「マッサン」の脚本を担当し、また、人気テレビアニメ「プリキュア」シリーズの脚本も担当しました。
このように経験豊かな脚本家である羽原さんが「ちむどんどん」で非難の的になってしまったのか不思議ですね。
意外な「らーめん才遊記」との繋がり
ところで、先程述べたような輝かしい経歴の羽原さんの脚本担当した作品のひとつに2004年に日本テレビ系列で2時間スペシャルとして放送された漫画を原作としたスペシャルドラマがあります。それが主人公、藤本浩平を演じる国分太一さん主演の「ラーメン発見伝」でした。つまり、羽原さんは黒島結菜さんが出演していた「らーめん才遊記」の時系列として前作のドラマの脚本を担当していたのです。
勝手な推測ですが
NHK朝の連続テレビ小説のヒロイン役は通常はオーディションで決められるのですが、「ちむどんどん」のヒロイン役はオーディションをすること無く、黒島結菜さんに決定しました。
「ちむどんどん」が沖縄を扱うストーリーということで沖縄出身の黒島結菜さんがヒロインに決定したと言われていますが、もしかしたら羽原さんが自分が脚本担当した「ラーメン発見伝」の続編である「行列の女神 らーめん才遊記」がちょっと気になり、「暢子」のキャスティング前に視聴したところ「ゆとり」の黒島結菜さんのイメージが「暢子」のイメージへと反映されたのではないかと勝手に推測してしまうのです。(「ちむどんどん」ヒロイン役「暢子」が黒島結菜さんという正式発表が2021年3月でしたので、「行列の女神」を視聴してからのキャスティングでもじゅうぶんに可能だと思うのです)
さいごに
人気漫画を原作としたテレビドラマが放送されるようになって久しいですが、やはり、既にプロットがしっかりした原作があるテレビドラマだとドラマ制作時によっぽどの事がない限り、ストーリーの展開・人物設定等に矛盾・破綻が発生せずに進んで行くので、視聴者も安心してストーリーについて行けるのだと思います。今回の「ちむどんどん」騒動であらためて漫画の偉大さを感じたのでした。
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